世界自然遺産登録を目指している小笠原諸島(東京・小笠原村)で、国の天然記念物オガサワラオオコウモリや珍しい野鳥などを襲う野生化した猫を、捕獲して本土に送ってペットにする取り組みが地元のNPO法人などの手で進められている。
今月からは捕獲作戦に島民も協力を始めた。
猫は住民が飼っていたものが野生化し、人里から離れた場所に住みついて野鳥などを捕まえて生息している。小笠原では1990年代半ばから、父島で固有種のオガサワラオオコウモリを襲ったり、母島で海鳥の繁殖地を荒らしたりする被害が深刻化している。
NPO法人・小笠原自然文化研究所と都獣医師会などが、島の生態系にも悪影響があるとして2005年から捕獲を始めた。
生け捕りされた猫は海を渡って本土に運ばれ、獣医師会の有志が無償で引き取ってペットとして育ててもらえるよう1~3か月かけて飼いならしている。その後、希望者に譲られ、これまでに100匹を超える猫に飼い主が見つかった。
同研究所によると、野生化した猫は、父島と母島でまだ150匹はいるとみられる。絶滅危惧種のアカガシラカラスバトの生息を脅かしているとの指摘もある。世界自然遺産登録の機運が高まったことから、地元の住民らも猫の捕獲協力に乗り出した。都獣医師会の小松泰史副会長は、「捕獲した猫は寂しかったせいか、人に慣れると飼い主に深い愛情を示す。世界遺産の候補地でもあり、責任をもって飼う大切さを訴えたい」と話している。
世界遺産登録の評価報告書を作成する国際自然保護連合(IUCN)による現地調査が13日終了し、調査にあたった専門家はこの取り組みについて「人道的なやり方で素晴らしく、良い意味でびっくりした。NPOや住民が参加し、環境教育の機会にもなっている」と話した。また、登録に向けた課題について、「外来種を持ち込まないようにチェックを強化することが必要」などと指摘した。登録の可否は、来年7月の世界遺産委員会で決まる。
(2010年7月13日14時53分 読売新聞)